I DANCE ALONE

高校最後の夏休み前日の夜、センチメンタルに駆られてだかだか歩いて、母校の小学校に到着する。
月が明るい。空は楕円を描いて深い紺色を湛えている。六年ぶりだ。
遊具はいくつか減って殺風景にはなっているけど、それ以外は変わってない。グラウンドを囲む森は相変わらず茂っていて、うまいこと暗闇と溶け合っている。
遊具が少なくなったおかげか、人工物つの気配が減っていて、山の中に一人でいるみたいな孤独さを感じる。グラウンドのど真ん中で右足を軸に一回転して寝っころがると、もう視界には月と濃紺の空しか映らない。
ゆっくりと薄雲が流れているのがわかる。物音一つせず、静寂の中、なんだか時間が止まっているような気がした。このまま夜が明けず、誰も現れず、ゆったりとただ寝転ってずっと空を眺めていられる気になる。
でもそんなことはない。
どれだけ望んだって、しっかりと朝日は登って定時に教師は出勤して、グラウンドで寝こける不審者の俺をたたき起こすだろう。
だから、このまま時間が止らないならば、いっそ地球滅亡でもすれば良いと思う。せめて何かが劇的に俺を殺してくれればいいんじゃないかと思う。何でも良い。突拍子なんてなくていい。なくていい。クソ食らえだ。宇宙人でもなんでもいいし、誰かの特殊な能力で何も分からないまま死んだって良い。
でもやっぱりそういう気分の力で世界は変わらない。何も変わらずに明日はやって来る。
結局、俺は気分ってBGMに乗ってその雰囲気に見合った踊りをタカタカ踊ってるだけだ。ちょっとメランコリーでセンチメンタルになってる俺は、それっぽい行動をしてそれに酔って満足してるだけだ。
俺はひとりぼっちで踊っている。ここには観客さえいない。
本当に一人だ。
月のスポットライトなんて月並みだが、今の舞台にはぴったりだろう。
なんだか唐突に悲しくなる。泣きたくなったし、叫びだしたくなった。実際に叫ぶ。どうせ周りには民家なんてぜんぜんないし、夜中の0時なんて酔っぱらいばっかりで誰も気にしちゃいない。
僕のこの声だって、悲しいって気分に流されて、演技をしてるだけなんだろう。
どこをどう探したって叫ぶ必要なんてないし、利益も無い。
でも理由だけならある。踊り続けていたい。ずっとこのまま気分に流され続けたい。
踊る事は悪いことじゃないだろう。そう、そう、気分に流されて生きることは決して悪い事じゃないと思うと思う。
時々こういう風に、たとえば今こうしているように、ふらっと気分気まま出かけて雰囲気を満喫するってのはとても爽快だ。
どうせ何も変わらないけれど、それでも俺は踊る。それが楽しいし気持ちが良いから。
でも誰だって三日三晩踊り続けていたら、きっと息絶えてしまうだろう。
だからそろそろ舞台を降りることにしよう。
カーテンコールが起こる心配はないけど、次また気分が乗ったらここに来よう。
さて家に帰って受験勉強でもするか。