2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

白の少女

美しく、穢れの欠片も無く、完璧で、そして『真っ白』な少女だった。 肌は透き通るような白、髪も輝くような白髪、着ている服すらなんの装飾もない下ろしたてのシーツをただ服の形に切り取ったようだった。 けれどただ二箇所、その両目だけは吸い込まれるよ…

夏の憧憬

『ここはお互い様子見と言ったところですか?』 『そうかもしれませんねー』 じわりと汗が滲む。僕は手に持っていたペンタブレットを脇に置いて作業を中断して、部屋の中、というか智をぼんやりと眺めていた。 智はい草座布団の上でちょこんと三角座りをして…

ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世は笑わない。3

それから幾分か過ぎた後であつた。ふと何かに脅されたやうな心もちがして、思はずあたりを見まはすと、何時の間にか例の小娘が、向う側から席を私の隣へ移して、頻に窓を開けようとしてゐる。が、重い硝子戸は中々思ふやうにあがらないらしい。あの皸だらけ…

暗がりが、こわい。

悲しい夢を見た。 起きて、それが夢だと気づいて。ほっと胸を撫で下ろす。 今度はゆっくり眠れますように。 そう神様に祈り続けながら、私は眠りに付く――。

ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世は笑わない。2

それは油気のない髪を四枚重ねの髪飾りで隠した、横なでの痕のある皸だらけの両頬を気持の悪い程赤く火照らせた、如何にもバルバロイらしい娘だつた。しかも垢じみた萌黄色の木綿の前掛けがだらりと垂れ下つた膝の上には、大きな木製の箱があつた。その又箱…

日が暮れて。

結局、昨日の英語の宿題は中途半端に終ってしまい、今日の英語の授業で大目玉を食らった。とても恥ずかしかった。今日から私は英語が苦手である。もし、将来大人になって「高校生の頃苦手な科目はなんだったか」といった話題になったとき、私は迷わず「英語…

ベクトルが消えた夏

―――あっ七個目だ。 そう思いながら私は、ガラス張りの向こう側、狭い空を飛んでいる飛行機を眺めていた。 ここは第二会議室で、エンジニアリング会社が入っている七階で、何とかビルというオフィスビルで、東京の有名なオフィス街だ。第二会議室では目下の所…

さくらさくら。

今日はあまり長い日記は書けません。何故なら明日までの英語の宿題があるからです。明日の日付と出席番号が私のものと一致しているので、私のクラスを担当している安藤先生は私を当てるに違いないのです。だから、今日は宿題をほったらかしてのうのうと日記…

ジュリエットスター

三階から地下一階へとエレベーターで降りる。エレベーターホールを抜けると通路の角に精肉店の又源と写真屋のファーストショップがあって、従業員に知った顔ぶれがないかを通りすぎる間にチェックする。 又源には知った顔は無かったけれど、ファーストショッ…

ぽっかりぽっかり。

今日になってまた昨日の日記を見返してみた。まだふしぎな心地が抜けきれない。 未だにどんな風に日記を書けばいいのか逡巡している。自分しか読み返さない日記なのだから好き勝手に書き散らせばいいのだろうけど、「自分との対話」を意識してしまうと書けな…

ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世は笑わない。

或晴れた夏の日ノ出である。私はテラノウヴア港発汽船のキヤビンの隅に腰を下して、ぼんやり船出の笛を待つてゐた。とうに電燈のついたキヤビンの中には、珍らしく私の外に一人も乗客はゐなかつた。外を覗くと、薄暗い船場にも関わらず、今日は珍しく見送り…

走れプチトマト!

昨日自分が書いた日記を見返しながら、不思議な心地になった。 私はこうして日記を書いている。しかし、それは誰かに宛てた手紙でもなければ筆談するためでもない。誰かに見せたりするわけでもない。私以外の誰かがこの文章を読んだりすることはないのだ。つ…

eat my kidney pie

天使には向かない職業に就きました その唇には毒を塗ってあげました 処方箋は薬莢が四つだけでした ぼくの腎臓はきみが食べたかと思っていました 正義に対して武装したあと 不愉快について考えましたメスの代わりにペーパーナイフを キスの代わりにくすぐっ…

envy

近所の遊園地が潰れた。廃墟のようになっていく過程を見られると思って、わくわくしたが、また目の前を悪いガスを撒き散らすトラックが通り過ぎていった。そう、なにもなくなるんだ。なんにも。 「うちの庭、遊園地なんだ」そうおどけて言った目線先では君が…

『深夜に文藝を謳歌する』 それがたとえばお昼寝の寝言でも。深夜に心は息してる。 それは私にとっては居場所に変わる。逃げ道にもできる。 ねぇ、そろそろ深夜だ、文藝しよう。

海の日記帳。

私は今日、ふしぎな日記帳を拾った。 下校途中、それは近所のゴミ捨て場のゴミ箱とゴミ袋の間に立て掛けられるように落ちていた。ただのノートにしては分厚く、装丁がしっかりしていたので、ハードカバーの本が捨てられるのかと私は考えた。「この世界に本を…